本対談では、セーフィーの佐渡島隆平代表取締役社長CEOとFRONTEO守本正宏代表取締役社長に、それぞれの企業のビジョン、カルチャー設計、AI活用の可能性と期待などをテーマにディスカッションいただきました。
―― 「映像から未来をつくる」というセーフィーのビジョンが描く世界について教えてください。クラウド録画サービスという新しい分野を切り開いてきた経緯は。
佐渡島:当社は映像データが一人一人の意思決定を支えるという信念の下「映像から未来をつくる」というビジョンを掲げています。
私は以前、画像・映像処理の研究開発を行ってきたソニー木原研究所からカーブアウトしたモーションポートレート社に在籍しており、2012年頃からAIの飛躍的な発展を見てきました。その時に、圧倒的な量のデータを持つ人が次の時代の社会をデザインしていくことを肌身で感じました。また、大量の顔の認識技術を使ったエンターテインメント系コンテンツを作った際には、機械学習の進展を目の当たりにしました。従来の機械学習は全部プログラミングする必要がありましたが、データのアノテーションによる自動生成が可能となり、人間の判断がコンピュータに置き換わっていく世界となることを実感しました。
2030年頃には、さまざまな世の中のデータが集約され、人やAIやロボットが共存して意思決定を行う仕組みが社会実装されると思います。そうした社会構造を先に定義して、そこにどうやってたどり着くかを考え、ビジネスを組み立てて前に進んでいくというのが我々の「映像から未来をつくる」というビジョンです。
実は、このビジョンには原体験があります。2014年の夏、私に2人目の子供が生まれ、家を建てました。その時に防犯カメラの設置を検討したのですが、当時の防犯カメラはスペックやセキュリティ水準が低く、安心して使えるものではなかった。この経験に基づき、従来の防犯カメラとは異なる、新しい考え方で生まれたデバイスを、ソフトウェアを活用しながら広める仕組みを作りたいと考えました。その実現のために、まずは「画像処理技術を生かして誰もが安心して手軽に使える“賢くなるカメラ”を作る」ところからスタートしました。1台のカメラとソフトウェアをクラウドサービスとして、カメラを使用したいユーザーに安価で提供することでSaaSビジネスが生まれる。また、カメラとソフトウェアとデータのプラットフォームを、PaaSとして様々な企業群に提供する。このプラットフォームにアプリケーションを載せていくと色々なデータが蓄積され、VDaaS(ビデオ・アンド・データ・アズ・ア・サービス)として、データによって、遠隔操縦できたり、自動運転したりと、よりロボティックスが人の生活に根付いて、人とロボットが共生するための新たなデータプラットフォームのビジネスチャンスが生まれていきます。これがセーフィーのストーリーです。人やAIやロボットが共存して意思決定を行う仕組みから逆算し、それを支援するように事業戦略を作っていくイメージですね。
守本:意思決定の支援を行うビジネスという意味ではFRONTEOも同じです。当社は弁護士・犯罪捜査官・医師といった専門家の意思決定を支援しています。犯罪捜査や訴訟、医療における診断などは、本来は平等であるべきであるにもかかわらず、対応する人の判断や能力の差によって結果が変わってしまう状況があるのをなんとかしたいという考えが、事業の根底にあります。これを解決する、技術を通じたフェアネスの実現に取り組んでいます。
―― ビジョンを実現する上で欠かせない組織作り。経営者として何を重視していますか。
佐渡島:多様な才能は認めつつ、一つの価値観を共有できるチームを作ることにエネルギーを注いでいます。また、ビジョンの実現のために、セーフィーが大切にする価値観・行動規範を7つの「カルチャー」1)として定め、それをベースに採用・評価・事業計画などを行っています。具体的内容は、例えば1つ目は「夢を語りまきこみやりきる」。未知の要素に満ちた社会では、人の想像力やアイデアこそが変化を生む起点であることを踏まえ、多くの人にご利用いただくサービスを生むには思い切って実行することが必要だと伝えています。
5つ目「想像を超えろ」は、顧客の想像以上のプロダクトを提供するために、品質の向上に全力を注ぐとの思いを込めています。
6つ目「超自分ごと化」は、ユーザーの利用シーンを自社プロダクトが直接関与する以外のシチュエーションも含めて隅々まで自分ごととして考え、課題への解決方法を見つけることです。ただし、時には「餅は餅屋」の発想も重要です。7つ目「三方よし」がこれに該当します。専門技術・サービスを持つ他の企業が担うべき部分は適切に委託・協業し、当社は新しいチャレンジに進んで次のインダストリーへの横展開に取り組みます。
守本:カルチャーはすごく大切だと私も実感しています。一方で、社員の多様性を認めることと、一つの方向に向かわせることの共存、調整には難しさもあります。以前、当社の歴史を編纂する仕事を若い人材に任せたところ、彼らが社長とやり取りして吸収したカルチャーと現場のカルチャーとの間でギャップを感じてしまい、うまくいかなかった経験があります。
佐渡島:当社では、すべての社員に対し、入社1日目に「カルチャーとは何か」を社長である私が1時間かけてプレゼンしています。構成はプロダクトを作るフレームワークや考え方、ロードマップ、実現に向けた仲間作り、それらの原点となるパッションなどです。また、当社の現状について、事業の産みの苦しみを経験した時代の話も含め、成長軌道に沿って伝えます。カルチャーブック「Safie Deck」は読み物としての面白さを追求しています。退屈なビジョンやカルチャーは聞いてもらえないので、ストーリーを重視しています。
人材採用の段階でも、挑戦し続けるためのチーム作りを意識しています。最終面接は私が担当し、応募者には事前に「Safie Deck」を読んでもらい、仕事への考え方を根掘り葉掘り聞いて、当社のチームの仲間に入りたいかを確認します。特にエンジニアリングのような具体的に見えるモノのない領域では、仲間たちとこだわりポイントが一致していることが大切です。面接でそのすり合わせをしているためか、離職率は非常に低く、「セーフィーは自分の会社だ」と思える人に入社してもらうことを重視しています。中には「自分の会社だ」と納得できるまで考え抜き、1年後に入社した人もいるほどです。
守本:FRONTEOでも、非連続的な成長に向けた組織力の強化は重要課題に位置付けています。また、社長が価値観を発信するだけでなく、各部門等のリーダーもスタッフに価値観をきちんと伝えられなければ現場で機能しません。1人がリードするだけでなく、同じ方向や価値観に向けて複数の人がリードする体制を構築したいと考えています。
―― 創業から3年でクラウド録画サービスでの国内シェアトップに上り詰めました。これまでで最も大変だった挑戦は何ですか。
佐渡島:試行錯誤の過程ではかなり失敗も重ね、顧客にもご迷惑をお掛けしました。例えば、ハードウェアの内部で発熱する現象は、電池の故障につながる可能性があり、深刻な課題でした。また、顧客の依頼で工事を行った際に、間違った場所にケーブルを張ったり穴を開けたりしてしまったこともあります。一番の失敗は、創業からの最初の3年間、少数精鋭を良しとしていたことです。結果、売り上げがまったく伸びませんでした。ソニーやGoogleが全世界で10万人以上の人材を擁していることを考えると、どれほど素晴らしく効率的な仕組みを運営する企業であっても、人が社会を構成している以上、市場を牽引できるような産業を作るためには、一定規模の人が重要だと、途中で気づきました。しかし、失敗は成長に向けたプロセスの一部と捉え、10回中9回の失敗をどれだけ楽しめるか、そしてそれを修正していけるかを考えながら事業に取り組んでいます。
守本:事業において、失敗を100%避けることはできませんが、失敗した際、それが生じる体制・運用などを修正・改善できなかった場合に生じる影響や不都合に思いを巡らし、改善のステップを実行できる組織であることが重要です。FRONTEOにおいても、そうした組織作りに注力しています。
―― 最後に、今後の事業への展望、取り組んでみたいことなどをお聞かせください。
佐渡島:ずばり「スマートビルディング」です。ビルの中を当社のサービスを活用してどんどん最適化していきたいです。発展的には、アノテーションなども含めて全部自動で行えば、「そのビルだけの知能」を作ることにもなります。ぜひAIベンチャー企業と協業して業界に広めていきたいです。
守本:データを収集しプラットフォームを作るという戦略は、日本企業では少数です。セーフィーの事業には大きな期待が寄せられています。翻って、FRONTEOの面白いところはAIエンジンです。優れたAIエンジンによりデータ解析の構造、さらには社会のアーキテクチャを変えることを目指しています。
佐渡島:サービスは結局「顧客の役に立ってなんぼ」です。セーフィーはユーザーエクスペリエンス、電源を入れるだけで迷わずに使えるような簡単さにこだわっています。もちろん、比類ないデータ量を扱っていることもサービスの大きな支えになっているので、更なるプロダクトの進化を目指したいです。
守本:データ収集には店舗経営や警備など、目的があると思います。際限なく収集すると本当に意味のあるデータは取れなくなります。セーフィーはそれを踏まえ、必要な部分にフォーカスしたデータ収集戦略を取られているのだろうと思います。意義のあるデータ収集には、AIエンジンの個別化・簡素化が欠かせません。それこそがFRONTEOの得意分野でもあります。
佐渡島:「すべての見る目に違う知能がついている」というのは、まさに我々が一番投資しているところです。今後も、ぜひ色々と情報交換させてください。
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