Bright!FRONTEO Official Blog

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データのつながりを見える化し、人材資本の最大化を実現する社会をつくる

2023年3月17日
SmartHR(スマートエイチアール)は、2013年に設立され、「労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる」をコーポレートミッションに掲げ、テクノロジーと創意工夫により、働きやすい労働環境づくりを目指しています。人事・労務に関わる業務をテクノロジーの力で効率化する一方、蓄積されたデータを活用して個人の能力・ポテンシャルを引き出し、人材配置を支援するタレントマネジメントのサービスに事業を拡大するなど進化し続けています。
本対談では、SmartHRの倉橋 隆文取締役COOとFRONTEO守本 正宏代表取締役社長に、スタートアップ時に乗り越えてきた課題や現在の状況、テクノロジーで実現する今後の展望について意見交換をいただきました。

 
人材資本の最大化を目指す


―― 理念、事業内容についてご紹介ください。

倉橋:SmartHRは、「employees first」と「well-working」の2つを目指しており、どちらもゴールは共通していて、人間の力を最大限に発揮できる社会を作りたい、と考えています。
労働人口が減少している日本において、人は希少な資本です。その人的資本の効率的かつ最大限の活用の役に立ちたいと考えており、これがSmartHRの価値提供の大きな部分を占めています。人事・労務の業務効率化により従業員や人事担当者の生産性向上に貢献してきました。そこから派生して、「SmartHR」のシステム上に蓄積された人事データを活用し、人材のさらなる活用やよりよい職場づくりを図るタレントマネジメント領域にもチャレンジしています。

 

守本:タレントマネジメントとは具体的にどのような事業ですか?

倉橋:「SmartHR」の業務を通して蓄積される膨大なデータを可視化させ、役職ごとの年齢・性別分布、離職率などを分析できるツールを展開しています。さらに、従業員の意見を汲み上げる従業員サーベイを開発しました。多くの従業員情報を集め、当社のシステムに登録されている属性情報、年齢・性別・部署・入社年次などとクロス集計することで、会社組織の傾向を掴みやすくしています。
また、評価管理も好評です。必要な情報をクラウド上に一元管理し、それを基に人材配置シミュレーション機能を用いて最適な人員配置を検討いただくものです。

守本:適材適所の配置はどのように判断されているのですか?

倉橋:さまざまなデータを参考にしつつ、現時点では人が判断しています。過去の評価やアンケートの回答結果、部署の滞留年数などの情報を見ながら、例えば、評価の高い人材が同じポジションに長くおり退職リスクが高いので、次のチャレンジを提案してみてはどうか、というように検討しています。

守本:緊急性のある業務やトラブルが発生した際に活躍できる人と、何もトラブルがない通常時に力を発揮する人の区別が難しいと思っているのですが、評価管理システムではそのあたりも解析できますか。

倉橋:そうした機能はまだシステム化されていませんが、適材適所の配置のヒントになるような、その人材が得意とする状況・能力・スキルの見える化には取り組みたいと考えています。

 

タレントマネジメントとAIは相性がいい


―― SmartHRの他社と比べた最大の特徴は何ですか。

倉橋:創業時から継続している人事労務効率化サービスの完成度の高さです。当社が業界における第一人者だと自負しています。販売開始からの年数が長く、利用顧客数も多く、シェアも拡大している。歴史も実績もあります。使いやすく、かゆいところにも手の届くサービスを構築しているのが一番の特徴です。タレントマネジメント領域は当社では後発事業ですが、長年蓄積されてきたデータがあったため、開始しやすい状況でした。

守本:FRONTEOは、訴訟における情報開示の支援が事業のスタートでした。人は法の下に皆平等ということが社会の本来のあり方であるにもかかわらず、証拠が見つからないために間違った判断が発生し、公平ではない判決が出るケースがあり、それはよくないと思い事業を始めました。この考えは、後に開始した医療領域の事業でも同様です。例えば、専門医による適切な診断を受ける機会があるかどうかによって治療の可能性に差が生じてしまう状況に対し、技術的なサポートにより適切な治療を平等に受けられるようにする。特に専門性の高い分野でAIを用いて専門家の判断を支援する事業を行っています。
先ほど、タレントマネジメントでは、データを基に人材がどのようなところで力を発揮するかを予測している、とお話しいただきましたが、当社の強みである自然言語処理と少し似ていると思った点があります。認知症の発症にはその人の暮らす環境が影響するとされています。しかし、ある研究で、修道院の人々を対象とした調査において、何十年も同じ環境下で生活を共にしていても、認知症になる人、ならない人がみられました。そして、その差が、修道女たちが20代のころに書いていた日記から読み取れることがわかりました。ずっと以前に記述した文章を解析することで、数十年後に認知症になるかどうかが予測できる。人間が作り出した言語というモダリティには驚くほどさまざまな情報が内在しており、それをFRONTEOのAIで解析すると、高い精度で多くの情報を得ることができるのです。

倉橋:専門家ですらわからない段階から高い確率で予測し、予防対策ができるのは、多くの人のより平等な幸福につながりますね。タレントマネジメントの領域は私たちもAIとの相性がよいと思っており、可能性を感じます。

守本:人事業務の中で、「こういうものがあればこの人は同僚や会社から評価される」といった暗黙知的なものはありますか?

倉橋:あると思っています。採用面接の面接官は、こういう考え方をする応募者は当社で活躍しそうだ、といった共通認識を持っている。それをAIが提示できるようになれば、高精度かつ均一のクオリティでのヒット感の判断が可能になるでしょう。

 

権限委譲は人と企業を成長させる最短ルート


―― 入社当時と現在では会社の状況はかなり変わったことと思いますが、どのように取り組んでこられましたか。

倉橋:入社当時は25人ほどの規模で、まさにスタートアップという状況でした。それぞれに役割分担はあるものの、全員が手を伸ばして落ちるボールを拾い合い、阿吽の呼吸で仕事をしていました。人員体制や事業内容の変動に柔軟に対応できるよう、制度やオペレーションを組みすぎないように留意しました。徐々に規模が大きくなり、現在は700人を超える組織に成長し、顧客も増えています。大人数がかかわる仕事については、各グループの責任や目的、目指すゴールは事前に決めながら、背中を預け合い、チームワークで成果を出すスタイルに変わってきました。
面白いのは、組織の中にゼロイチがあることです。人事・労務の業務効率化について成功パターンはある程度見えてきました。同時に、今もチャレンジ中のタレントマネジメントや、初期のスタートアップ時のような状況、さらに小さい事業もあります。しっかりとした大きいオペレーションが確立されている事業とスタートアップが組織の中で混在している状況が、非常にユニークです。

守本:組織が大きくなると権限委譲なども必要となりますが、うまくいかないことなどはありませんでしたか?

倉橋:ありました。ただ、それは仕方ないことだと思っています。権限を持ち続ける人がいると、その人が組織のボトルネックとなり、組織の成長限界を定めてしまうキャップになる方が怖い。100%すべてがうまくいくわけではありませんが、少し早いくらいでも権限委譲して、失敗も経験してもらい、その中で組織全体の力が上がっていく。短期的にはともあれ、中長期にはそれが最短ルートになるだろうと考え、どんどん権限委譲をしています。SmartHRは権限委譲の文化が強い会社なのです。

守本:権限委譲のタイミングがとてもよかったのではないかと思います。さまざまな事業に手を広げたくなることもありますが、立ち止まって、まずは1つの事業をしっかり地固めされたのでは。そのあたりのタイミングはどうされたのですか。

倉橋:その通りですね。あまりに早く広げすぎても、広げなさすぎてもよくありません。経営陣もマネージャー陣もバランスをうまくとろうと心掛けています。
現場寄りの社員に権限委譲していくのも、やりすぎたら許容できない失敗になってしまいますし、やらなさすぎても、後になるほど権限を渡しにくくなり、最終的には無理やり渡す状況になりかねません。どちらに偏っても悪夢しか待っていないので、そのバランスは常に全員が気にかけています。

 

組織崩壊を起こさせない


―― 組織が小規模だったころ、一番苦労されたことは何ですか。

倉橋:ありがたいことに「SmartHR」は初期からプロダクトの評価が高く、チームのモチベーションも高かったので、よいチームワークでポジティブに動けていました。
一番つらかったのは、阿吽の呼吸がなくなる規模になったときです。昔は皆が全員を知っていて、誰が何をしているのか把握できていましたが、少しずつ顔も名前も知らない人が増えくると、初期メンバーは不安になります。それを感じて、それぞれの仕事を紹介し合う交流会を開くなど、コミュニケーションを保とうとしたのですが、組織が大きくなるにつれ、一度は密接な関係性を取り戻せても、2、3カ月後にはまた同じ状況に陥ってしまう。そんな繰り返しを経験し、阿吽の呼吸は組織が大きくなればなくなるものだということに気付きました。それからは、役割分担をより明確にして、組織体制を構築し、チームプレーの強化を図る方向に切り替えていきました。

守本:その「組織体制構築」は、誰がどのように考え、作り上げたのですか。

倉橋:今でも完成しているわけではなく、皆で議論して考えながら取り組んでいます。誰が、は、経営者や現場のメンバーなどさまざまですね。自由な発想が出てくる文化が当社の強さです。最善の役割分担やチーム体制の見極めるは困難です。見極めたと思っても事業が変われば状況も変わる。常に移り変わり、永遠に終わらない、ずっと付き合い続けなければならない課題ですが、従業員皆が考え、発想を共有しています。

守本:当社は会社を設立し20年目です。国際訴訟は米国が本場なので、海外ではまず米国に進出しましたが、1つの事業が日本と米国に分かれ、また米国でM&Aも行ったこともあり、組織のグリップが薄まった時期がありました。さらに、事業が拡大した段階で当社のコア技術であるAIエンジン「KIBIT」が開発されたので、チャンスを逃してはだめだと考え、ほかの領域にも事業を広げました。それによりマネジメントの数が足りなくなり、これは今も課題の1つです。現在、FRONTEO内にはスタートアップ企業が4つあるイメージで、それを1つの会社として仕組みを作っている状態です。最近は組織ごとのチームの最適化やチーム同士の交流ができるようになってきました。

倉橋:創業20年たってもチャレンジが続いている、とてもエキサイティングな状況ですね。SmartHRもマネジメント不足は常に課題です。マネジメントポジションが増える中で兼務も増えている。拡大期によくあることです。社内メンバーには、どんどんマネジメントに挑戦してもらっています。

守本:ラインマネージャーの採用といえば、御社の採用時にポジションのタイトルをつけないという方法は画期的ですね。

倉橋:タイトルのないデメリットもあり、例えば採用オファーの承諾率が落ちるのは事実です。一方で、こだわっている理由は、プラス面も大きいためです。
以前の環境で活躍していたリーダーやマネージャーが、違う環境に転職してきて、そこでも同じように活躍できる保障はありません。たまたま価値観や考えの合わないマネージャーが入り、チームが崩壊することが怖いのです。そのため、まずはマネージャー候補として入社し、実力を証明いただいて、周りからも評価された時に、いよいよマネジメント職についていただく。組織崩壊を起こさないことを重視しています。
誇らしいのが、SmartHRはこれまで従業員数の停滞や減少がなく、右肩上がりで増え続けています。事業が順調という側面もありますが、組織崩壊を起こしていないことが重要だと考えており、今後も大切にしたいです。

 

企業文化の浸透でイノベーションを起こし続ける


―― スタートアップの時期を経て、現在課題としていることは?

倉橋:2つあります。1つは、兼務が多く人数の足りていないマネジメント層の拡充です。もう1つは、当社はまだまだ進化途中なので、一度固めた役割分担を常に最適化を探りながら進化させないといけません。小規模の時は比較的やりやすいのですが、現在は700人の従業員がいるので、大きな変化を起こすためにより多くのエネルギーが必要です。実現のための、変革をけん引するリーダーを増やしたい。また、それにチャレンジしやすい環境を私たち経営陣が作ることが課題です。

守本:言葉にするよりかなり大変なことだと思いますが、どのような工夫をされていますか?

倉橋:私たちの掲げるバリューに「ワイルドサイドを歩こう」というものがあります。
安全で保守的な案に着地させるのではなく、リスクがあるかもしれないがワイルドに突き進もうという価値観を大事にしており、評価項目の1つにもなっています。組織が大きくなった時、自ら変革を仕掛けるのはもちろん大事ですし、変革を起こそうとする人をサポートすることもワイルドサイドです。その考えを全社員と共有し、イノベーションのジレンマが起きないように、イノベーションが起き続けるように文化調整しています。

守本:文化を作ることにチャレンジしなければいけないし、チャレンジする人全員を応援するのも難しい。チャレンジ内容は会社の理念や戦略に沿っているか、当初の計画にもないことをどのタイミングで行うのか、など色々な面も考えなければいけない。一歩間違えると社員が勝手にやってしまう可能性もあります。いい側面もあれば危険な側面もあるので、会社が目指すのと違う方向に行かないように、見極めながら調整するのは難しいです。

倉橋:行動で証明することは大事です。組織が大きくなり、階層が増えていくと現場感が薄れる。私はスキップ1オン1という面談をしています。社員から、今、会社がどう見えているかをヒアリングしながら、現場感覚を維持する努力をしています。ただ、私は現場感をどうしても持ち合わせていないので、それを自分自身が認識し、現場の意思決定については、頼んだ!と任せるように心がけています。

 

データの「見える化」はよりよい社会の実現の一助になる。


―― DX推進により実現したい社会のビジョンをお聞かせください。

倉橋:DXが進むと2つよいことがあります。
まず、1人当たりの生産性が上がります。テクノロジーを使って効率化を進め、従業員に価値の高い仕事に注力して活躍してもらう、人材のポテンシャルを最大限に引き出す側面です。
もう1つは、すべてがデータ化され蓄積されていくので、その解析・見える化を通して、これまで不可能だったことが実現します。時系列でデータのつながりが見えるようになることにも大変価値があります。SmartHRでいうと、「評価が高い人」と「退職している人」をつなげると組織の課題が見える可能性がある。さらに、傾向や予測を見える化すれば、今まで気付けなかったことに気付けるようになり、課題を認識して対策を取れる。例えば、配置シミュレーションや従業員アンケートの結果に応じて、組織をよくする施策を打つことができ、よりよい社会の実現の一助になるでしょう。

守本:気づきを得られる点はとても重要です。ディスカバリ(訴訟における証拠開示)という事業では、単に証拠を見つけるだけではなく、いくつかの証拠が集まって新たな気づきや仮説が生まれる。誰も知らない仮説の生成や、まだ見えていないことの新たな創出は、AIだからこそ可能だと考えています。これまで天才と呼ばれる人にしかできなかったことも、AIの力でできる範囲と処理スピードが上がり、よりよい社会づくりを加速させると期待しています。

 

―― 今後の展望についてお聞かせください。

倉橋:よりよい社会をつくるために尽力します。働く人の生産性ややりがいの向上を目指します。データのつながりを見える化することで、より多くの気付きを得られるようになり、将来AIの力を借りることもあるかもしれません。テクノロジーの力を借りながら、人事制度業務などを助けていきたいです。

守本:われわれはフェアネスな社会の実現が念頭にあります。それを実現する日本のAIが、世界にも通用する技術であることを打ち出していきたいです。自然言語処理という点で当社のAIエンジン「KIBIT」は高い技術を持っています。特にライフサイエンス領域、AI創薬については、世界中の不治の病の解明に役立てられると考えています。あらゆる人の公平な健康と幸福に貢献していきたいです。

 

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