Bright!FRONTEO Official Blog

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誰もが自分らしく生きられる社会の実現を目指す

2022年2月8日
障害者向け就労支援事業や子どもの可能性を拡げる教育事業など、多様な人の教育と社会生活支援を行う株式会社LITALICO。2016年からFRONTEOのAIソリューションを導入し、障害者の就労ストレスに伴うメンタルヘルス悪化や自殺の予兆把握に活用いただいています。
LITALICOとFRONTEOは、事業内容は異なるものの、公平性や社会性を強く意識した事業展開を行っていることが特徴です。LITALICOの長谷川 敦弥 代表取締役社長とFRONTEO守本 正宏 代表取締役社長に、それぞれの企業理念と経営者としての信念、事業を通して実現したい社会のあり方、AI活用の可能性と期待について対談いただきました(オンラインで実施)。

障害のない社会づくりとフェアネスの実現

―― LITALICOが企業として目指していること、そのために心がけていらっしゃることをお聞かせください。

長谷川:LITALICOの企業理念は「障害のない社会をつくる」です。障害は人ではなく社会の側にあり、それをなくすためのソリューションやプロダクトの提供によって、障害のある方だけでなく、すべての多様な人が自分らしく生きていける社会づくりを目指しています。
 社会の側の障害をなくすプロダクトとは、例えば視力の低い人は昔からいましたが、眼鏡が発明され普及したことで、そうした人の生きづらさは大幅に解消されました。同様に、移動・学習・就労などの様々な困難を持つ人への解決策が当たり前に提供される社会を実現したいと考えています。

 当社の事業は、元々は障害のある子どもを対象に、個々の特性に合わせた学習支援・就労支援を行うBtoC事業が中心でした。しかし、ここ5年ほどは、我々が直営店で培ってきたノウハウを業界の他の福祉施設や学校に提供するBtoB事業にも注力しています。
 障害者支援・教育分野は、一般に比較的小規模な事業者が多く、社会福祉法人やNPO法人が地域密着でごく少数の事業所を運営しているケースが大半を占めます。一方で、我々は業界の中では大規模な組織で、現在約250店舗を展開しています。大規模であることのメリットは、教材作成・人材育成・マーケティングなどの専門チームや、FRONTEOのAIなどのテクノロジーを活用してお客様の生きづらさを解消するシステムを内部に構築できることです。こうした体制を通して蓄積されたLITALICOのエッセンスを学校や福祉施設に提供しており、現在の契約先は1万6000施設を超えました。

長谷川 敦弥 代表取締役社長(LITALICO提供)

―― 業界へのナレッジシェアは、競合のサービス強化・向上に繋がります。難しい経営判断だったかと思いますが、意思決定の経緯は。

長谷川:ご指摘の通り、競合に対して自社のノウハウを提供していることになります。しかし、LITALICOはただ自分たちがナンバーワンになるのではなく、どうすれば1日も早く「障害のない社会」を実現できるかを重視して事業に取り組んでいます。業界全体、また社会の変革に貢献できる事業展開という観点からは、ナレッジシェアは自然な選択でした。

 LITALICOには待機者が大勢おり、児童発達支援・放課後デイサービスを行うLITALICOジュニアでは全国で約1万5000人、長い方は5年ほど待つ状況です。我々も店舗展開に努めていますが、それでも追い付かない圧倒的な需要がある。自社の直営店だけではニーズにお応えできない以上、自社が開発してきた教材やシステムを活用し業界全体に貢献できる余地があるのであれば、取り組むべきだと考えました。自社事業へのマイナスを恐れて業界をよりよくする事業をしないという判断は我々らしいのかを考えれば、行わない選択肢はありませんでした。それが経営判断上の失敗とならないよう、必要な業績を上げられるよう努力しています。

守本:FRONTEOの事業も、領域は異なりますが、「情報社会のフェアネスの実現」、公平な社会づくりを目指すものです。最初に立ち上げたリーガル領域における事業は、不公平の解消に貢献するものです。米国の訴訟では、証拠が訴訟の勝敗を左右します。そのために徹底した事実確認を行いますが、今日、ビッグデータの時代になり、膨大な情報から正しい証拠を見つけ出すのは大変困難で、高度な技術が必要となります。そうした技術がないことで必要な証拠を提出できない、または間違った証拠を出すことによって不利に働く状況が生じていました。本来、法の下に平等であるべき裁判において、技術力やノウハウの差から間違った結果になってしまうことをなくしたいという思いから、会社を立ち上げました。

 同様の不平等が存在する場面は他にも多くあります。その1つとして現在、取り組んでいるのがライフサイエンス領域です。AIを用いて認知症の有無を判定する「会話型 認知症診断支援AIプログラム」の開発を行い、医療機器としての承認に向けて進めています。超高齢社会が到来し、認知症対策が社会的重要課題となる中、認知症の診断には専門知識・経験が必要で、それを行える医師は限られています。本来医療は万人に平等に提供されるべきですが、専門医のいない地域においては適切な診断が行えないことも多いのが実情です。これをAIでサポートし、すべての人が適切な診断や治療を受けられる社会を目指しています。

 こうした事業は社会に大きく貢献するものだと確信していますが、一方で、理解・活用されるには多くのハードルがあり、時間もかかります。その過程、特に事業が順調に進んでいない時に、社員にどうそれを乗り越えてもらうか、モチベーションを維持し理念が実現するまでの苦しい時間に耐えてもらうかは難しい課題だと感じています。LITALICOではいかがですか。

長谷川:誰しも自信やモチベーションが低下することはあります。しかし、皆に同じタイミングでそれが訪れるわけではありません。例えば、僕が落ち込んでいる時でも、他の誰かは元気です。僕が実現困難かな、と悩んでいても、他の社員が「私はできると信じている」と言ってくれる。ある事業部で業務が難航していても、他の事業部が「こんなことができました!」と報告する。そうした仲間の頑張りやチャレンジから元気をもらい、相互に影響し合って高い情熱を保てているのではないかと思います。

守本:それは素晴らしいですね。職場全体がそうした雰囲気を維持できるよう工夫されていることはありますか。

ぶれない理念と真摯な実践が信頼につながる
 

長谷川:元々、理念に共感する人が集まっていることは大きいでしょう。また、全体としては先ほどお話ししたムードですが、もちろん内部では様々な課題意識や危機感はあります。一方で、理念の実現に向けて真剣に努力している会社であることは理解してくれているのではないかと思います。お客様や社員は、何を基に相手を信じるか。それはやはり実践です。そのため、経営者として自分自身が心から信じている理念を掲げ、嘘をつかず、真摯に実践する姿勢を一貫して持つことを大切にしています。この積み重ねにより、LITALICOや、LITALICOが目指す社会を信じる輪が広がります。信じて付いてきてくれる社員に感謝し、軌道修正もしながら真摯な実践を続けることを心がけています。

守本:経営者として、“ぶれない”ことは非常に大切です。最初に決めたこと、目標として掲げたことに対し、何があってもぶれない。同時に、経営者と社員はいつも同じ目線で未来が見えているわけではありません。立場によって見えるものが異なることもあります。達成に長い期間を要する業務に取り組むのは、頂上が雲に隠れて見えない山を登り続けるようなものです。それが得意な人、頑張れる耐性のある人もいますが、当然そうではない人もいる。そのため、皆で頑張っていけるよう、一定のステップごとに、それぞれの努力が実現し成果が出ていることを提示できるよう心がけています。

長谷川:ご指摘の通り、壮大なビジョンや長期的な取り組みに対し、頑張り続けられる仕組みづくりは重要です。また、社会貢献を目指す際、ともすると「こうすべきだ」と気負いすぎてしまう危険があります。実は、僕も昔そういった時期があり、今は反省しています。社会的使命感だけでなく、人生の長く多様な局面を通して楽しく働き続けられる環境をつくることも大事だと感じています。

メンタル不調の重篤化予防を目的に5年前にAIを導入

就労支援サービスを提供するLITALICOワークス(LITALICO提供)

―― LITALICOでは、2016年より障害者向け就労支援にFRONTEOのAIを導入しています。AI活用により実現したかったことは何でしょうか。また、よろしけば成果をお話しください。

長谷川:FRONTEOのAIの導入は、共通の知り合いであったコンサルティング会社から紹介されたのがきっかけです。障害者向け就労支援事業のお客様は、それぞれに多様な特性とニーズを持つ方々です。そのため、個別性が高く、ノウハウが実装されづらく、専門家の育成が難しいという特徴があります。AIは、その解決の力になると考えました。

 まず取り組んだのは、メンタル面の調子の悪化やうつ状態、不安・衝動性の高まりの予兆の早期発見です。サービス提供開始時に行う調査では、通われている方の何割かは、過去、死にたい、という考えを持ったことがあると回答します。また、日頃そう思っている様子はなくても、何かの出来事をきっかけに突発的な行動につながるリスクもゼロではありません。精神的な負荷や不安・衝動性の高まる予兆の察知は我々にとって極めて重要な課題であり、社員研修やスーパーバイザーの仕組みづくりなど様々な取り組みをしてきましたが、実効性のある対策や人材育成はとても難易度が高く、苦慮していました。そもそも、重篤な衝動性・メンタル不調は頻繁に起こることではないので、支援経験者は極めて少数です。そのため、豊富な支援経験に基づく「ベテランの知見」なども限られています。それを、AIならば解決できるのではないかと考え、実証実験を行いました。

 数少ない過去のデータを教師データとしてAIで解析した結果、2つの傾向が表れました。1つは、AIがハイリスクと判断し、それをベテランスタッフたちが確認すると「確かに危ないな」と思う、人による評価と一致したもの。もう1つは、ベテランスタッフはテキストデータからはハイリスクとは考えなかったものの、他のデータなどから総合的に判断すると確かにリスクが高い、というケースです。その中の1例は、担当スタッフはハイリスクと認識していないお客様でしたが、AIの評価を情報共有していたところ、その1週間ほど後に、その方が急に道路に飛び出そうとされ、一緒にいたスタッフがすぐに反応して止めることができました。同様に、KIBITを使ったおかげでお客様の命を守れた事例が複数出てきたことから、これはやはりすごい、と現場の理解が進みました。

 現在、5年間運用して、新たなナレッジ確立や人材育成への効果を感じています。現場のリスク感度も上がり、ヒヤリハットの報告件数が増え、早期に適切な介入をすることができるようになりました。

―― 実際に成果が出ているとうかがい、大変嬉しいです。今後、さらにAIやテクノロジーに期待することはありますか?

長谷川:人口減少が進む中、社会には多様な人がいて多様なニーズがあります。それに応えるには、1人が様々なニーズに対応できる力を持つことが不可欠です。これにはAIによるサポートはなくてはならないと思います。

 将来への期待としては、教育領域では、テクノロジーを活用して子どもたちが自分にとっての適切なロールモデルと出会える仕組みづくりができればよいと考えています。多様な子どもたちが個々の特性に合った多様な活躍ができるようにするために、どうパスを作っていけばよいか。住んでいる地域の制約を受けずに多様な人と出会い、話して刺激を受け、学べる機会を、オンラインや、もしかしたらAIのアバターなども活用して提供し、リアルが持つ時間・距離などの限界を突破して、子どもたちが「こんな素敵な人がいるんだ」「この分野が面白い、勉強したい」と思える機会や場作りができるとよいですね。

守本:AI技術を活用し、既存の仕組みに留まらず、社会に様々な考え方、気づき、チャンスを提供できる仕組みづくりには、ぜひ取り組んでみたいと考えています。例えば、子ども本人の記述や、学校の先生などがその子について書いたテキストを解析し、1人1人が得意なもの、好きなもの、生きがいを感じるものとのマッチングを行うなどです。現在、FRONTEOが行っている事業である犯罪捜査の証拠発見、診断支援、創薬などは、いずれも“気づき”の提供だと言えます。これを応用し、子どもの興味の幅の拡大や自分自身への気づきの提供にも役立ててみたいです。

―― 最後に、今後の事業への展望、取り組んでみたいことなどをお聞かせください。

長谷川:既存事業に加え、教育や高齢者支援など、LITALICOのノウハウを生かしてより幅広く社会に貢献できる事業展開をしていきたいです。同時に、現状の延長線上で少しずつ社会をよくするだけでなく、ブレイクスルーにより飛躍的に社会を変える、本当のイノベーションの可能性にも果敢に挑戦したいと考えています。

守本:社会貢献というのは聞こえは良く、クリーンで清々しいイメージがありますが、実際に遂行して成果を上げることは簡単ではありません。実現にはむしろ泥臭く、大変な努力が必要です。しかし、周囲の人にも実際に働く人にも、なかなかそれが理解されていないことが多いです。このため、いざ社会貢献事業に取り組むと、現実とのギャップを受け入れられない場合も少なくありません。
 それでも我々の絶え間ない努力の先にあるフェアネスの実現のために、強い思いを持って頑張っていきたいです。また、それを支援できるAIを開発・提供していきます。当社は児童虐待防止など、人の支援に貢献するソリューションも展開しています。今後も社会を変えられるイノベーションに、ぜひ一緒に取り組んでいきましょう。

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